自己破産のご依頼をいただいたお客様から、このような質問をいただくことがあります。
この問題を判断するにあたっては、「付加一体物」や「付合物」「従物」といった法的な概念の理解が必要となります。
以下、順を追ってご説明いたします。
1 抵当権の効力が及ぶ範囲
抵当権は、対象不動産に「付加して一体となっている物」に及ぶとされています(民法370条本文)。
すなわち、家具・家電、エアコン・物置が、自宅に「付加して一体となっている物」にあたれば、抵当権が及ぶことになり、転居先へ持っていくことはできません。
一方、これらの物が「付加して一体となっている物」にあたらなければ、抵当権の効力が及ばず、転居先へ持っていくことができます。
ここにいう「付加して一体となっている物」、いわゆる《付加一体物》は、どのようなものを指すのでしょうか。
民法には、《付合物》、《従物》といった類似の概念もあるため、それらと比較しながら検討していきます。
2 付合物について
《付合物》とは、「不動産に従として付合したもの」をいいます(民法242条)。
例えば、土地の立木・庭木、取り外しが困難な庭石、建物の増築部分、雨戸、入口の扉、ビルのエレベーター・配電盤などが、付合物としてあげられます。
このような付合物は、物としての独立性を失っており、不動産の構成部分となっています。
そのため、付合物は、付加一体物に含まれることになり、抵当権の効力が及びます。
これは、付合が抵当権設定の前後を問わないとするのが一般的な考えです(抵当権設定後に設置された付合物にも抵当権の効力が及びます)。
3 従物について
《従物》とは、主物の常用に供するため、それらに附属させられたものをいいます(民法87条1項)。
例えば、建物に備え付けられたエアコン・物置・畳・障子、農地に常備された畜舎・納屋などが、従物としてあげられます。
この場合、建物や農地が主物となり、建物とエアコン等、農地と畜舎等の間に主従の関係が成り立っています。
従物は、主物に附属しても物としての独立性を失わない点で、付合物とは異なります。
この従物が、付加一体物に含まれるか否かについては、法律家の間で考え方の変遷がありました。
明治時代までさかのぼれば、抵当権の効力は従物には及ばないとした判例もあります。
しかし、これは大正時代に変更され、抵当権設定時に存在した従物(設定時従物)に抵当権の効力が及ぶことが肯定されています。
現在の裁判所も、設定時従物には、抵当権の効力が及ぶとの考えを肯定しています。
抵当権設定後に抵当不動産に附属させられた従物(設定後従物)については、どうでしょうか。
先ほどの大正時代の判決からは、設定後従物には効力が及ばないことが間接的に示されています。
しかし、その後の判例は、設定後従物にも効力が及ぶとしており、これが現代の裁判所の立場といえるでしょう。
この問題については、専門家の間でも、各種の見解・理由付けが主張されています。
専門家の間では、裁判所の考え方と同様、設定時従物でも設定後従物でも、抵当権の効力が及ぶことを認めるのが主流です。
理由付けはさておき、結論としては、付加一体物には従物も含まれるため、従物にも抵当権の効力が及ぶと考えて差し支えありません。
4 まとめ
ここまで、「自己破産をすることになりました。自宅には抵当権が設定されているのですが、自宅にある家具・家電やエアコン・物置などを転居先へ持っていっても問題はありませんか?」というご質問に対する回答をするために、前提となる事項を説明してまいりました。
最後に、質問に対する回答を整理します。
まず、ソファ・本棚といった家具、冷蔵庫・洗濯機といった家電は、自宅建物に附属しておりませんので、「付合物」にも「従物」にもあたりません。
そのゆえ、家具・家電は「付加一体物」には当たらず、これらに抵当権の効力は及びません。
よって、自由に転居先へ持っていくことは認められます。
一方で、エアコン・物置は、自宅建物に附属し、建物の効用保持に役立っているため、「従物」にあたります。
そのゆえ、設置の時期を問わず、「付加一体物」に該当し、抵当権の効力が及ぶと考えるのが、最近の主流の立場です。
よって、エアコン・物置は、転居先へ持ち出さないほうが無難です。