再生手続開始決定が出されると、その後は新たに給料の差押えを行うことができません。
しかし、弁護士に相談する前や民事再生(個人再生)の申立ての準備中など、再生手続開始決定が出される前に、債権者から判決や支払督促に基づく給料の差押えをされる場合があります。
この場合には、個人再生の申立てを行うことにより、給料の差押えを解いてもらうことができますので、以下で解説させていただきます。
給料の差押えと個人再生の申立て
弁護士に個人再生を依頼すれば、まずは弁護士から債権者へ受任通知(弁護士が介入して個人再生の手続の準備に入ったことを知らせる通知書)が送付されます。
しかし、この受任通知の送付によって、自動的に給料の差押えが止まるわけではありません。
弁護士が債権者に対し、給料の差押えを取り下げるように要請することもできます。
しかし、経験上、任意に給料の差押えの取下げに応じてもらえることはほとんどありません。
そのため、給料の差押えを受けているのであれば、一刻も早く個人再生の申立てを行うことが大切です。
強制執行手続の停止
個人再生の申立てをしたあと、裁判所が審査のうえで不備・問題なしと判断すれば、再生手続開始決定が出されます。
そして、再生手続開始決定が出されることにより、給料の差押えが停止されます。
具体的には、再生手続開始決定の決定書を、給料の差押えを行っている裁判所(執行裁判所)に提出することにより、給料の差押えが解かれます。
強制執行中止命令
個人再生の申立てをしても、直ちに裁判所から再生手続開始決定が出されるわけではありません。
裁判所から提出書類の修正や追加提出を指示されるなどし、再生手続開始決定までに2週間~1か月程度かかることもあります。
この間に給料の差押えが続くと生活が立ち行かなくなる場合には、個人再生の申立てをした裁判所(申立裁判所)に「強制執行中止命令」の申立てをすることができます。
そして、強制執行中止命令が発令されたあと、給料の差押えを行っている裁判所(執行裁判所)に届け出ることにより、給料の差押えが解かれます。
個人再生の手続中の給料
強制執行中止命令・強制執行手続の停止によって給料の差押えが解かれたとしても、すぐに給料の全額を受け取れるようになるわけではありません。
個人再生の手続中は、あくまでも一時的に給料の差押えが中止・停止されているに過ぎず、最終的に再生計画が認可されなければ、給料の差押えが再開されるからです。
そのため、差押え分の給料は、再生計画の認可決定が確定するまでは、勤務先がプール(一時保管)することとなります。
そして、再生計画の認可決定が確定したあと、給料の差押えを行っている裁判所(執行裁判所)に届け出ることにより、給料の差押えが正式に取り消されます。
これをもって、勤務先がプールしていた差押え分の給料がまとめて支払われ、それ以降の給料も全額受け取ることができるようになります。
強制執行取消命令
再生手続開始決定から再生計画の認可決定が確定するまでは、4~5か月程度かかるのが通常です。
この間、差押え分の給料を勤務先にプール(一時保管)され、給料の一部を受け取れない状態が続くことにより、生活や個人再生の手続に著しい支障が出る場合には、個人再生の申立てをした裁判所(申立裁判所)に「強制執行取消命令」の申立てをすることができます。
そして、強制執行取消命令が発令されたあと、給料の差押えを行っている裁判所(執行裁判所)に届け出ることにより、個人再生の手続中でも給料を全額受け取ることができるようになります。
税金・社会保険料の滞納処分の取り扱い
税金・社会保険料を相当期間滞納し、督促を無視して放置していると、滞納処分によって給料が差し押さえられることがあります。
税金・社会保険料の滞納処分による給料の差押えと、上記のような債権者からの判決や支払督促に基づく給料の差押えとでは、取り扱いが異なります。
法律上、再生手続開始決定の後に、新たに税金・社会保険の滞納処分を行うことはできません。
しかし、再生手続開始決定の時点ですでにされている滞納処分は、効力を失わずに続行されます。
そのため、個人再生の申立てを行う前に税金・社会保険料の滞納処分を受けていると、再生計画の実行が困難であると裁判所が判断し、再生計画が不認可とされてしまう可能性があります。
税金・社会保険料の滞納がある場合には、まずは税務署や市町村役場などに相談し、分割納付などの対応をとっておくことが大切です。
弁護士にご相談ください
給料の差押えを受けた場合の個人再生は、特に緊急性の高い事案であるため、一刻も早く借金・債務整理を得意とする弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。